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For Musicians — 音楽家の経理

ミュージシャン・音楽活動の確定申告
出演料・印税・配信収入・楽器の経費

ライブの出演料、サブスク配信やYouTubeの収入、印税・著作権使用料、グッズ販売、レッスン料、作曲・編曲やサポート演奏の報酬——ミュージシャンの収入は多様で、源泉徴収されるものと、されないものが混在します。楽器や機材の購入、スタジオ代、衣装、交通費など経費の幅も広く、申告にはコツが要ります。本コラムでは、ミュージシャン・音楽活動の経理と確定申告の要点を高円寺の税理士が実務目線で整理します。

代表税理士 渡邊巧
監修・執筆 — Author
代表税理士 渡邊 巧 / W総合会計office(高円寺の税理士)
確定申告・法人税・相続税・贈与税・記帳代行・経営相談に対応。プロフィール →

Overviewミュージシャンの確定申告の全体像

プロ・アマを問わず、音楽活動で収入を得ているミュージシャンは、原則として確定申告が必要です。1年間の収入から必要経費を差し引いた利益に所得税・住民税がかかります。バンド・ソロ・サポート・作曲家・DTMクリエイターなど形態は様々ですが、税務上は個人事業主(または副業の雑所得者)として扱われます。

ミュージシャンの経理には、(1) 出演料・印税・配信・グッズ・レッスンなど収入の種類が多い、(2) 出演料・作曲料など一部は源泉徴収される、(3) 楽器・機材・スタジオなど経費が多様で高額、(4) 活動規模により事業所得か雑所得かの判断がある——という特徴があります。

複式簿記で記帳して青色申告を選べば、青色申告特別控除や赤字の繰越しなど有利な取扱いを受けられます。収入源ごとに入金を整理し、経費の領収書を残せているかが、申告の精度と納税額に直結します。

確定申告が必要となる所得ライン

専業(音楽活動が主)の場合、所得(収入−経費)が基礎控除額を超えると所得税の確定申告が必要です。基礎控除は令和7年度改正で引き上げられ、令和7年・8年分(2025・2026年)は所得水準に応じて58万〜95万円です(従来は一律48万円)。

会社員などをしながら音楽活動をしている場合は、給与以外の所得が年20万円を超えると所得税の確定申告が必要です(住民税は別途申告が必要)。

Income Types多様な収入の区分と計上

ミュージシャンの収入は、性質によって扱いや源泉徴収の有無が異なります。まずはどの収入がいくらあったかを源泉ごとに整理することが申告の出発点です。

ミュージシャンの主な収入と性格
収入主な性格・留意点
ライブ・イベント出演料源泉徴収されることが多い
サポート・スタジオ演奏の報酬源泉徴収されることが多い
作曲・編曲・アレンジの報酬源泉徴収の対象になり得る
印税・著作権使用料(JASRAC等)支払元により源泉徴収の扱いが異なる
サブスク配信・YouTube広告収入原則源泉なし(海外入金は要換算)
グッズ・CD・音源の物販物販の売上(消費税の課税売上)
レッスン・指導料役務提供の売上

海外プラットフォームからの入金に注意

配信サービスやYouTube、海外のディストリビューターからの入金は外貨のことがあり、入金時の円換算が必要です。手数料が差し引かれている場合は、差引前の総額を売上に、手数料を経費に計上します。明細をダウンロードして保存しておきましょう。

Withholding Tax出演料・作曲料の源泉徴収と還付

個人のミュージシャンに支払われる出演料・演奏料・作曲料などは、所得税法上の「報酬・料金」にあたり、支払時に源泉徴収(原則10.21%、100万円超の部分は20.42%)されることが多くあります。これは前払いの所得税で、確定申告で1年分を精算し、納め過ぎていれば還付されます。

一方、グッズ物販やレッスン料、配信収入などは、原則として源泉徴収の対象外です。同じ音楽活動でも収入の種類で扱いが変わるため、支払明細・支払調書で源泉徴収されているかを必ず確認しましょう。

源泉徴収された分は確定申告で取り戻す

源泉徴収は経費を考慮せず報酬額に対して差し引かれます。楽器・スタジオ・移動など経費が多いミュージシャンは、経費を差し引いた本来の税額より源泉徴収額が多くなり、確定申告で還付されるケースが少なくありません。支払調書が届かなくても、振込明細から源泉徴収額を集計して申告できます。

Business vs Misc事業所得か雑所得か

音楽活動の所得が事業所得雑所得かは、規模・継続性・営利性などから判断します。事業所得なら青色申告特別控除・損益通算・赤字の繰越しが使える一方、雑所得ではこれらが使えません。

一般に、帳簿書類を備え、継続的・反復的に相当規模で音楽活動を行い、それで生計を立てている(または立てようとしている)場合は、事業所得として扱われやすくなります。趣味の延長で年数回の出演にとどまるような場合は、雑所得とされることがあります。

副業ミュージシャンの「赤字の損益通算」に注意

会社員をしながらの音楽活動が事業所得と認められれば、赤字を給与所得と損益通算できる場合があります。ただし、活動の実態が伴わないのに赤字を作って給与の税金を取り戻すような申告は否認されるリスクがあります。帳簿を備え、活動の実態(出演記録・契約・収支)を残しておくことが大切です。判断に迷う場合はご相談ください。

Deductible Expensesミュージシャンが経費にできるもの

音楽活動に必要な支出は必要経費として収入から差し引けます。経費の幅が広い職種なので、計上漏れがないよう区分して管理することが節税につながります。

楽器・機材

  • 楽器、アンプ、エフェクター、マイク、PA機材、DTM機材・ソフト
  • 弦・リード・スティックなどの消耗品、楽器のメンテナンス・修理費
  • 高額な楽器・機材は減価償却(青色は30万円未満〈2026年4月1日以後の取得分は40万円未満〉の特例あり。次章で詳説)

制作・スタジオ

  • リハーサル・レコーディングのスタジオ代、エンジニア・ミキシングの外注費
  • CD・音源・MVの制作費、ジャケットデザイン料、配信ディストリビューションの手数料

出演・移動・衣装

  • ライブ会場までの交通費・遠征の宿泊費、機材運搬費
  • ステージ衣装(公演専用のもの)、ヘアメイク

宣伝・学習・その他

  • SNS広告・ホームページ・フライヤー・音源宣伝などの広告宣伝費
  • レッスン・教則・楽譜・参考音源など研鑽のための費用
  • 携帯・通信費(私用兼用は按分)、税理士報酬

Depreciation楽器・機材の減価償却

楽器や機材は高額になりやすく、その取得価額によって経費にする方法が変わります。

取得価額別の経費化の方法(青色申告の中小事業者等)
取得価額経費化の方法
10万円未満購入年に全額を経費
30万円未満(※)少額減価償却の特例で即時に経費化(年間300万円まで)
30万円以上(※)耐用年数に応じて減価償却

少額減価償却資産の特例

青色申告の中小事業者等は、取得価額30万円未満(2026年4月1日以後の取得分は40万円未満)の楽器・機材を、年間合計300万円まで購入した年に全額経費にできます。高額なヴィンテージ楽器など、これを超えるものは、楽器の種類に応じた耐用年数で減価償却します。なお、骨董的価値があり時間が経っても価値が減らないとされる楽器は減価償却できない場合があります。

Invoice Systemインボイス制度とミュージシャン・2割特例

ミュージシャンの多くは年間の売上が1,000万円以下の免税事業者です。出演料を支払うイベンター・ライブハウス・レーベル・制作会社(課税事業者)は、インボイスがないと仕入税額控除ができないため、登録を求めてくることがあります。

登録すると、免税事業者であっても課税事業者となり、消費税の申告・納税義務が生じます。そこで重要になるのが、小規模事業者向けの負担軽減措置です。

インボイス登録に伴う負担軽減措置(個人事業者)
適用時期特例納付税額
〜令和8年分まで2割特例売上税額の2割
令和9年分・令和10年分3割特例売上税額の3割

登録すべきかは「支払元」で考える

出演料の支払元が課税事業者の企業中心なら登録を求められやすく、登録しても2割特例で負担を抑えられます。一方、観客からのチケット代やグッズ売上(一般消費者)が中心なら、登録の必要性は低いことがあります。なお、免税事業者であることだけを理由に一方的に出演料を引き下げることは、独占禁止法・下請法上の問題となり得ます。支払元の構成を踏まえて判断しましょう。

Tax Saving節税・青色申告と法人化

収入の波が大きいミュージシャンこそ、使える制度を取りこぼさないことが大切です。

  • 青色申告特別控除(最大65万円):複式簿記での記帳+e-Tax申告(または電子帳簿保存)で65万円を所得から控除。
  • 少額減価償却資産の特例:取得価額30万円未満(2026年4月1日以後の取得分は40万円未満)の楽器・機材を、年間300万円まで即時に経費化。
  • 赤字の繰越し:青色申告なら赤字を翌年以降3年間繰り越し、黒字の年と相殺できます。収入変動の大きい音楽活動と相性のよい制度です。
  • 小規模企業共済・iDeCo:掛金が所得控除になり、将来の備えにもなります。

印税・配信・グッズなどで収入が大きく安定してくると、法人化(法人成り)も選択肢です。役員報酬による所得分散、設立後最大2年間の消費税免除(要件あり)、対外的な信用などのメリットがある一方、社会保険の加入義務や運営コストといったデメリットもあります。複数年の見通しを立てて判断するのが安全です。当事務所では、個人のまま続ける場合と法人化した場合の試算をご提供します。

FAQよくある質問

趣味で年に数回ライブをしています。確定申告は必要ですか?

会社員で給与以外の所得(音楽の利益)が年20万円を超える場合は確定申告が必要です。20万円以下でも住民税の申告は別途必要です。規模により事業所得か雑所得かが分かれます。

出演料から引かれている10.21%は何ですか?

源泉徴収された所得税(前払い)です。確定申告で経費を差し引いて精算すると、納め過ぎた分が還付されることがあります。

高い楽器を買いました。一度に経費にできますか?

青色申告なら30万円未満(2026年4月1日以後の取得分は40万円未満)を年間300万円まで即時に経費化できます。それ以上は耐用年数に応じて減価償却します。

YouTubeや配信の海外からの入金はどう申告しますか?

外貨入金は円換算して売上に計上します。手数料が引かれている場合は、差引前の総額を売上、手数料を経費にします。明細を保存しておきましょう。

ステージ衣装は経費になりますか?

公演・撮影専用の衣装であれば経費になり得ます。普段着としても使える一般的な服は、私用との区別がつかず原則経費になりません。

Our Support当事務所のサポート

W総合会計officeでは、出演料・印税・配信・グッズ・レッスンなど多様な収入の整理、源泉徴収された報酬の精算・還付、楽器・機材の減価償却と少額特例の活用、事業所得か雑所得かの判断、インボイス登録と2割特例・3割特例の有利判定、青色申告などの節税、帳簿付け・記帳代行、法人化のシミュレーション、確定申告までを一貫してサポートします。収入源が多く整理が難しい状態からでも、お気軽にご相談ください。

※本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の取扱いは事実関係により異なります。源泉徴収の対象判定、事業所得か雑所得かの区分、楽器の減価償却、個人事業税の取扱いなど、具体的なご判断は当事務所にご相談ください。税制・特例の要件は改正される場合があります(記載内容は2026年6月時点)。