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For Builders — 一人親方の経理

一人親方・建設業の経理と確定申告
外注費か給与か・インボイス・経費

建設業の一人親方や職人は、元請けから「外注(請負)」として報酬を受け取りながら、現場ごとに材料・外注・移動の費用が発生します。確定申告では、報酬が請負(外注費)か雇用(給与)かの区分、インボイス対応、工具・車両の経費、建設国保や一人親方労災の扱いなど、一般的な事業者とは異なる論点が数多くあります。本コラムでは、一人親方・建設業の経理と確定申告の要点を高円寺の税理士が実務目線で整理します。

代表税理士 渡邊巧
監修・執筆 — Author
代表税理士 渡邊 巧 / W総合会計office(高円寺の税理士)
確定申告・法人税・相続税・贈与税・記帳代行・経営相談に対応。プロフィール →

Overview一人親方の確定申告の全体像

一人親方は、現場で働いていても労働者(従業員)ではなく独立した個人事業主です。1年間の収入から必要経費を差し引いた利益(事業所得)に所得税・住民税がかかり、確定申告が必要になります。所得が一定額を超えると、建設業は個人事業税(第一種事業・税率5%、事業主控除290万円)の対象にもなります。

一人親方の経理には、(1) 元請けからの報酬が「外注費(請負)」か「給与(雇用)」かで扱いが大きく変わる、(2) インボイス制度が元請けとの関係に影響する、(3) 工具・車両・材料・移動など経費の比重が大きく領収書管理が甘くなりがち、(4) 建設国保・国民年金・一人親方労災など社会保険の扱いが会社員と異なる——という4つの特徴があります。

複式簿記で記帳して青色申告を選べば、青色申告特別控除や赤字の繰越しなど有利な取扱いを受けられます。日々の請求書・領収書をきちんと残せているかが、そのまま申告の精度と納税額に直結します。

確定申告が必要となる所得ライン

専業の場合、所得(収入−経費)が基礎控除額を超えると所得税の確定申告が必要です。基礎控除は令和7年度改正で引き上げられ、令和7年・8年分(2025・2026年)は所得水準に応じて58万〜95万円です(従来は一律48万円)。

会社員をしながら一人親方の仕事もしている場合は、給与以外の所得が年20万円を超えると所得税の確定申告が必要です(住民税は別途申告が必要)。

Contract vs Employment「外注費」か「給与」か——請負と雇用の境界

一人親方の税務で最も重要な論点が、元請けから受け取る報酬が、税務上「外注費(請負)」なのか「給与(雇用)」なのかという区分です。これは発注側・受注側の双方に大きく影響します。

この区分は契約書の名称ではなく、働き方の実態で判断されます。指揮監督を受けているか、他の人に代わってもらえるか、材料や用具を自分で負担しているか、報酬が出来高か時間給か——といった要素を総合的にみます。

外注費(請負)と給与(雇用)の主な判断要素
着眼点請負(外注費)雇用(給与)
指揮監督自分の裁量で作業元請けの指示に従う
代替性他の職人に行わせてよい本人が行う必要
材料・用具自分で用意・負担会社が提供
報酬の性格出来高・請負金額時間・日数で計算
未完成のとき引渡しまで請求不可働けば支払われる

「給与」と認定されるリスク

毎日同じ現場で元請けの指示どおりに稼働し、日当で支払われる「常用」のような働き方は、税務上給与と認定されることがあります。給与と認定されると、元請け側には源泉徴収・社会保険の問題が生じ、一人親方側は事業所得ではなく給与所得となって、経費は概算の給与所得控除のみ、青色申告のメリットも受けられなくなります。請負契約書・請求書・出来高の記録など、請負の実態を裏づける書類を残しておくことが大切です。

Invoice Systemインボイス制度と一人親方・2割特例

一人親方の多くは年間の売上が1,000万円以下の免税事業者です。元請け(課税事業者)は、インボイス(適格請求書)がないと支払った外注費について仕入税額控除ができないため、一人親方に登録を求めるケースが増えました。

登録すると、免税事業者であっても課税事業者となり、消費税の申告・納税義務が生じます。そこで重要になるのが、小規模事業者向けの負担軽減措置です。

インボイス登録に伴う負担軽減措置(個人事業者)
適用時期特例納付税額
〜令和8年9月分まで2割特例売上税額の2割
令和9年分・令和10年分3割特例売上税額の3割

登録しないことのみを理由とした取引排除は問題

免税事業者であることだけを理由に、元請けが一方的に報酬を引き下げたり取引を打ち切ったりすることは、独占禁止法・下請法上の問題となり得ます。登録するかどうかは、取引先(元請け)の構成と、登録した場合の納税負担、2割特例などの軽減措置を踏まえて判断しましょう。建設業は簡易課税で原則第3種事業(みなし仕入率70%)のため、2割特例と簡易課税のどちらが有利かもあわせて比較します。

Deductible Expenses一人親方が経費にできるもの

仕事に必要な支出は必要経費として収入から差し引けます。一人親方は材料・工具・車両・移動にかかる費用の比重が大きく、計上漏れがないよう区分して管理することが節税につながります。

材料・工具・消耗品

  • 材料費、電動工具・手工具、安全帯・ヘルメット・安全靴・作業着
  • ビス・刃・消耗部材などの消耗品、工具のメンテナンス費
  • 取得価額が高額な工具・機械は減価償却(青色は30万円未満〈2026年4月1日以後の取得分は40万円未満〉の特例あり)

車両・移動

  • トラック・バンなど車両の減価償却、ガソリン・車検・自動車保険・自動車税(事業使用分を按分)
  • 現場までの高速代・駐車場代・電車賃、遠方現場の宿泊費

外注・応援・レンタル

  • 応援を頼んだ職人への外注費(相手のインボイス登録の有無に注意)
  • 重機・足場・仮設機材のレンタル料

現場・その他

  • 作業着のクリーニング、現場での飲み物などの福利・会議費
  • 携帯・通信費(私用兼用は按分)、損害賠償責任保険、税理士報酬

自分の労災・国保・年金は「経費」ではない

一人親方労災(特別加入)の保険料や、建設国保・国民年金の保険料は、必要経費ではなく社会保険料控除(所得控除)として差し引きます。経費(事業の利益を計算する段階)と所得控除(個人の事情で利益から差し引く段階)を混同しやすいため、次章で整理します。

Insurance & Pension建設国保・国民年金・一人親方労災

一人親方は会社員と違い、自分で健康保険・年金・労災に加入します。これらの保険料・掛金は、その性質に応じて必要経費ではなく所得控除として扱うものが中心です。

一人親方の主な保険・年金と税務上の扱い
項目税務上の扱い
建設国保・国民健康保険社会保険料控除
国民年金・国民年金基金社会保険料控除
一人親方労災(特別加入)社会保険料控除
iDeCo小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済小規模企業共済等掛金控除
対外的な損害賠償責任保険必要経費

「経費」と「所得控除」の違い

経費は事業の利益(事業所得)を計算する段階で売上から差し引くもの、所得控除はその利益から個人の事情に応じて差し引くものです。建設国保・国民年金・一人親方労災は所得控除(社会保険料控除)にあたるため、事業の経費には入れません。両者を正しく区分することが、正確な申告と適正な納税につながります。

Simplified Tax手間請け・材料支給と簡易課税の業種区分

課税事業者となり簡易課税を選ぶ場合、建設業は原則として第3種事業(みなし仕入率70%)に区分されます。ただし、材料を元請けが支給し、加工・組立など人的役務の提供が主体となる「手間請け(手間賃のみ)」の工事は、第4種事業(みなし仕入率60%)に区分される場合があります。

当面は、売上税額の2割で済む2割特例(〜令和8年9月分を含む課税期間)のほうが有利になるケースが多く、その後は3割特例(令和9・10年分)も使えます。簡易課税と特例のいずれが有利かは、契約形態(材料込みか手間請けか)によって変わります。

自分は「第3種」か「第4種」か

材料を自分で仕入れて請け負う通常の建設工事は第3種、材料が元請け支給で手間賃のみを受け取る手間請けは第4種とされる場合があります。区分により納付税額が変わるため、自分の契約形態を確認したうえで判断することが大切です。判断に迷う場合は当事務所にご確認ください。

Tax Saving一人親方の節税・青色申告

収入の波がある一人親方こそ、使える制度を取りこぼさないことが大切です。代表的な節税策を整理します。

  • 青色申告特別控除(最大65万円):複式簿記での記帳+e-Tax申告(または電子帳簿保存)で65万円を所得から控除。
  • 少額減価償却資産の特例:取得価額30万円未満(2026年4月1日以後の取得分は40万円未満)の工具・車両・備品を、年間300万円まで即時に経費化(青色申告の中小事業者等)。
  • 小規模企業共済:掛金(月最大7万円)が全額所得控除。引退・廃業時の退職金代わりになります。
  • 経営セーフティ共済(倒産防止共済):掛金(月最大20万円・累計800万円)を必要経費に算入可能。元請け倒産による売掛金回収不能への備えにも。
  • iDeCo(個人型確定拠出年金):掛金が全額所得控除。老後資金を作りながら節税。
  • 青色事業専従者給与:配偶者などが経理・事務に従事する場合、相当額を経費にできます。

収入の変動が大きい場合は、赤字を翌年以降3年間繰り越せる青色申告のメリットも大きくなります。

Bookkeeping帳簿・請求書・領収書の管理

一人親方は現金払いや立替が多く、領収書の管理が甘くなりがちです。経費の計上漏れは、そのまま納税額の増加につながります。

自分が発行する請求書と元請けからの支払明細、材料店・ガソリン・高速代などの領収書を月ごとに分けて保存しましょう。インボイス登録後は、登録番号などの記載要件を満たした適格請求書を発行する必要があります。帳簿・書類は青色申告で原則7年間の保存が必要です。

「領収書がない」を作らない

ETC・ガソリン・材料などはカードやアプリの利用明細で補完でき、現場での現金払いは出金メモを残しておくと経費として説明しやすくなります。年末には、通帳の入金額と元請けからの支払額、帳簿を突き合わせて、計上漏れや期ずれがないか確認しましょう。

Incorporation法人化を検討するタイミング

売上・利益が安定して大きくなってくると、法人化(法人成り)が選択肢になります。一般に、課税所得800万円超・売上1,000万円超が法人化を検討する目安とされます。

法人化のメリットは、自分や家族への役員報酬による所得分散と給与所得控除の活用、設立から最大2年間の消費税免除(資本金1,000万円未満などの要件)、欠損金の繰越期間が長いこと、退職金、対外的な信用などです。建設業では、法人化により建設業許可や経営事項審査(経審)を通じた公共工事の入札参加で有利になる面もあります。一方で、社会保険の加入義務、設立・運営コスト、赤字でも生じる均等割、事務負担の増加といったデメリットもあります。

収入の変動が大きい業種のため、単年ではなく複数年の見通しを立てたうえで判断するのが安全です。当事務所では、個人のまま続ける場合と法人化した場合の税負担・社会保険負担を試算し、判断材料をご提供します。

FAQよくある質問

一人親方の報酬から源泉徴収はされますか?

原則されません。一人親方への請負代金は給与でも、士業・原稿料などの「報酬・料金」でもないためです。ただし、給与と認定されるような働き方の場合は、源泉徴収や社会保険の問題が生じます。

インボイス登録をしないと仕事が減りますか?

元請けの方針によります。ただし、免税事業者であることのみを理由に一方的に減額・取引停止することは独占禁止法・下請法上問題となり得ます。2割特例で当面の負担は抑えられるため、取引先の構成を踏まえて検討しましょう。

国民健康保険や国民年金は経費になりますか?

なりません。これらは社会保険料控除(所得控除)として差し引きます。経費と混同しないことが正確な申告につながります。

軽トラや電動工具はいつ経費にできますか?

取得価額10万円未満は購入年に全額、青色申告なら30万円未満(2026年4月1日以後の取得分は40万円未満)を年間300万円まで即時に経費化できます。それ以上は耐用年数に応じて減価償却します。

白色申告のままでも大丈夫ですか?

申告自体は可能ですが、青色申告の65万円控除・赤字の繰越し・専従者給与・少額減価償却の特例が使えず不利です。記帳に不安があれば記帳代行とあわせてご相談ください。

Our Support当事務所のサポート

W総合会計officeでは、外注費か給与かの区分の整理、インボイス登録と2割特例・3割特例・簡易課税(第3種/第4種)の有利判定、工具・車両・材料など経費の整理と社会保険料控除との区分、建設国保・一人親方労災の取扱い、青色申告などの節税、帳簿付け・記帳代行、法人化のシミュレーション、確定申告までを一貫してサポートします。領収書・請求書が手元にバラバラな状態からでも、お気軽にご相談ください。

※本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の取扱いは事実関係により異なります。外注費か給与かの判定、簡易課税の事業区分、個人事業税の取扱いなど、具体的なご判断は当事務所にご相談ください。税制・特例の要件は改正される場合があります(記載内容は2026年6月時点)。