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Overview何が義務になったのか
電子帳簿保存法第7条は、次のように定めています。
所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。
短い条文ですが、押さえるべき点が3つあります。
- 対象は所得税と法人税の保存義務者——つまり法人も個人事業主も、規模を問わず全員が対象です。売上が小さいから対象外、ということはありません。
- 「電子取引を行った場合には」——紙でやり取りしている取引は対象外です。紙の請求書は紙のまま保存すれば足ります。義務が生じるのは、電子でやり取りした分だけです。
- 「電磁的記録を保存しなければならない」——保存するのはデータです。印刷した紙は、この条文でいう電磁的記録ではありません。
条文上、対象は所得税と法人税に係る保存義務者です。消費税の仕入税額控除の要件は別に定められており、こちらは書面に出力して保存する方法も認められています。ただし所得税・法人税の側で義務が残る以上、実務としてはデータを残す一択になります。
What Counts「電子取引」に当たるもの
「うちはシステムを入れていないから関係ない」と思われがちですが、ほとんどの事業者が該当します。次のようなものは、すべて電子取引です。
| 場面 | 具体例 |
|---|---|
| メール | PDFの請求書・領収書・見積書がメールに添付されて届いた/自社から送った |
| メール本文 | 本文に金額や取引内容が書かれている(添付ファイルがなくても対象) |
| ネット通販 | Amazon・楽天などの注文履歴からダウンロードする領収書 |
| クレジットカード | Web明細をダウンロードして使っている場合 |
| 交通系・キャッシュレス | アプリやWebから取得する利用明細・領収書 |
| クラウドサービス | 会計・請求・EDI・電子契約のシステム上でやり取りした請求書や契約書 |
| チャット | チャットツールで受け取った請求書・領収書のファイル |
逆に、紙で受け取った領収書をスキャンする話とは別です。紙の書類をスキャナ保存するかどうかは任意で、紙のまま保存しても構いません。義務なのは「最初から電子でやり取りしたもの」だけです。ここを混同すると、必要のない作業まで抱え込むことになります。
Print Is Not Enough印刷して保存するだけでは足りない
もっとも多い誤解がここです。印刷して紙で綴じ、元のデータを消してしまう——これは義務を満たしません。
条文が求めているのは電磁的記録の保存です。紙に出力したものは、あくまで出力書面であって電磁的記録ではありません。あとで説明する猶予措置を使う場合でも、データそのものを残しておくことは変わりません。猶予されるのは保存の「要件」であって、保存そのものではないからです。
実務でよく見かけるのが、「経理担当者が請求書メールを印刷してファイルし、メールは古いものから自動で消えていく」という運用です。この状態は、印刷したファイルがどれだけ整っていても要件を満たしません。まずはデータが消えない場所に残っているかを確認してください。
Requirements保存の要件——真実性と可視性
保存の仕方は、施行規則第4条第1項に定められています。大きく2つの柱があります。
① 真実性の確保——4つのうちいずれか1つ
データが後から改ざんされていないことを担保する措置で、次の4つのうちいずれか1つを行えば足ります。
- 送信前にタイムスタンプが付されたデータを授受する
- 受け取った後、速やかにタイムスタンプを付す
- 訂正・削除の履歴が残る、または訂正・削除ができないシステムを使う
- 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿って運用し、備え付ける
費用をかけずに済ませるなら、4つ目の事務処理規程です。国税庁がサンプルを公開しており、社名と運用ルールを埋めれば作れます。タイムスタンプも専用システムも要りません。中小の事業者の多くは、この方法を選んでいます。
② 可視性の確保
- 保存場所にパソコン・ディスプレイ・プリンタと操作説明書を備え付け、画面と書面に整然とした形式・明瞭な状態で速やかに出力できること
- 取引年月日・取引金額・取引先で検索できること(次章のとおり、多くの事業者は免除されます)
Search検索要件は、多くの事業者で不要になる
「検索できるようにする」と聞くと専用システムが必要に思えますが、施行規則第4条第1項には広い除外が置かれています。
まず、税務調査でデータのダウンロードの求めに応じられるようにしている場合、範囲を指定した検索や項目を組み合わせた検索の要件は不要になります。そのうえで、次のどちらかに当てはまれば、検索の要件そのものが不要です。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 売上規模による免除 | 判定期間に係る基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者 |
| 出力書面による免除 | データを出力した書面を、整然とした形式・明瞭な状態で、取引年月日その他の日付および取引先ごとに整理して提示・提出できるようにしている場合 |
いずれも、ダウンロードの求めに応じられるようにしていることが前提です。
売上5,000万円以下の事業者であれば、データをフォルダに保存し、事務処理規程を備え付けるだけで要件を満たせます。ファイル名を「20260902_〇〇商事_110000.pdf」のように統一しておけば、探すのも実務上は困りません。
Grace猶予措置——ただし「データは残す」
令和5年度の改正で、恒久的な猶予措置が置かれました。施行規則第4条第3項です。次の両方を満たす場合、第1項の要件によらずにデータを保存できます。
- 要件に従って保存できなかったことについて、納税地等の所轄税務署長が「相当の理由」があると認めること(災害その他やむを得ない事情による場合を含む)
- 税務調査の際に、電磁的記録と、それを出力した書面の提示・提出の求めに応じられるようにしていること
条文には、事前の申請や届出を求める定めは置かれていません。
ここで絶対に取り違えてはいけないのは、猶予されるのは第1項の「要件」であって、データの保存そのものではないという点です。条文も「当該電磁的記録の保存をすることができる」と書いています。つまり猶予措置を使う場合でも、
- データは残す(消してはいけない)
- 求められたらデータを見せられる
- 求められたら紙に出力して見せられる
この3つは必要です。「猶予措置があるから紙でよい」という説明を見かけますが、正確ではありません。紙だけにして元データを消す運用は、猶予措置でも認められません。
How To Start今日からできる最低限の対応
お金をかけずに整えるなら、次の3つで足ります。
- 保存する場所を1か所決める——パソコンの「電子取引」フォルダでも、クラウドストレージでも構いません。年度ごと・月ごとにフォルダを分けておくと、あとが楽になります。
- ファイル名のつけ方を決める——「日付_取引先_金額」で統一します。例:
20260902_〇〇商事_110000.pdf。売上5,000万円以下なら検索要件は不要ですが、この形にしておけば実務で困りません。 - 事務処理規程を作って備え付ける——国税庁が公開しているサンプルをもとに、社名と運用ルールを入れて印刷し、ファイルに綴じておきます。これで真実性の要件を満たせます。
あわせて、メールの自動削除設定を止めることをおすすめします。請求書がメール本文に書かれているだけのケースでは、メールそのものが保存対象です。何年も経ってから「あの取引の資料がない」となる原因の多くが、この設定です。
取引量が多い場合や、複数人で経理をしている場合は、クラウド会計や証憑管理のサービスを使うほうが結果的に手間が減ります。どこまで仕組みにするかは、月にどれだけの件数があるかで決めるのが現実的です。
Penalty守らなかった場合
保存の要件を満たしていないというだけで、直ちに罰金が課されるわけではありません。ただし、次のような不利益が生じ得ます。
- 青色申告の承認が取り消される可能性——帳簿書類の備付け・記録・保存が財務省令で定めるところに従って行われていない場合、青色申告の承認取消しの対象になり得ます(法人税法第127条第1項第1号)。65万円の特別控除や欠損金の繰越しが使えなくなると、影響は大きくなります。
- 経費として認められにくくなる——支出の事実を裏づける資料がなければ、税務調査で否認される可能性が高まります。
- 隠蔽・仮装があった場合の重加算税の加重——電子取引の取引情報に係る電磁的記録に記録された事項に関して隠蔽・仮装があった場合、重加算税が10%加重されます(電子帳簿保存法第8条第5項)。
とはいえ、実務で本当に困るのは税務調査より前です。「あの請求書がどこにあるか分からない」という状態そのものが、日々のコストになります。ルールを決めておくことは、法令対応というより経理の効率の問題だと考えたほうが、続けやすいと思います。
FAQよくある質問
売上が小さくても対象ですか?
対象です。電子帳簿保存法第7条は所得税および法人税に係る保存義務者を対象としており、規模による除外はありません。ただし基準期間の売上高が5,000万円以下であれば、検索の要件は不要になります。
紙に印刷して保存していますが、それではだめですか?
足りません。条文が求めているのは電磁的記録の保存で、印刷した紙は電磁的記録ではありません。猶予措置を使う場合でも、データそのものを残しておくことは必要です。
タイムスタンプや専用システムが必要ですか?
必要ありません。真実性を確保する4つの措置のうちいずれか1つでよく、「正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程」を定めて運用・備え付けることでも要件を満たせます。国税庁がサンプルを公開しています。
紙で受け取った領収書もスキャンしなければいけませんか?
いいえ。紙で受け取ったものは紙のまま保存して構いません。スキャナ保存は任意です。義務なのは、最初から電子でやり取りしたデータだけです。
猶予措置があると聞きました。何もしなくてよいのですか?
そうではありません。猶予されるのは保存の要件であって、保存そのものではありません。データを残したうえで、求められたらデータと出力書面の両方を見せられる状態にしておく必要があります。
Our Support当事務所のサポート
W総合会計officeでは、電子取引データの保存について、いま何が足りていないかの確認、事務処理規程の作成、保存フォルダとファイル名の運用ルールづくり、クラウド会計や証憑管理サービスの導入支援まで対応しています。「メールの請求書をどうすればよいか分からない」「規程のサンプルをどう埋めればよいか分からない」という段階からご相談いただけます。記帳代行をお引き受けする場合は、証憑の受け渡しの流れごと設計しますので、保存のルールもあわせて整います。
※本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の取扱いは事実関係により異なります。保存要件の充足、猶予措置の適用、システムの選定など、具体的なご判断は当事務所にご相談ください。制度・税制は改正される場合があります(記載内容は2026年9月時点)。
電子取引データの保存を含む記帳と月次の体制づくりは、法人は 法人顧問・決算申告、個人の方は 記帳代行(丸投げOK)・確定申告の代行 のページをご覧ください。