Loss from Fraud

外注先の持ち逃げ・使えないソフトや設計図|損失は経費になる?必要な証拠と消費税

代表税理士 渡邊巧
監修・執筆 — Author
代表税理士 渡邊 巧 / W総合会計office(高円寺の税理士)
確定申告・法人税・相続税・贈与税・記帳代行・経営相談に対応。プロフィール →

杉並区高円寺の税理士・W総合会計office(代表税理士:渡邊巧)が、外注費・前払金がムダになったときの税務上の取扱いを解説します。当事務所は広東語・英語対応スタッフが在籍しています。

海外出身の経営者の方から、こういうご相談をよくいただきます。

そして必ずセットで聞かれるのが、この二つです。

「払ったお金は、経費で落とせますよね?」
「消費税も返ってきますよね?」

残念ながら、答えはどちらも「そのままでは、いいえ」です。ただし、正しい手順を踏めば損失として経費(損金)にできる余地はあります。順に説明します。


1. なぜ「払っただけ」では経費にならないのか

お金を払った時点では、会計上その支出はまだ費用になっていません。多くの場合、次のような資産として帳簿に残っています。

費用になるのは、役務の提供を受けたとき、あるいはその資産を使い始めて減価償却を進めたときです。つまり「持ち逃げされた」「使えなかった」という段階では、税務上はまだ資産のまま。これを損失に振り替えるには、「損失が確定した」といえる事実が別途必要になります。

ここが最大のポイント:税務調査で最初に問われるのは「本当に損をしたのか」ではなく、「そもそもその取引は実在したのか」「損失が確定したのはいつか」です。海外送金がからむ案件では、実体のない外注費・利益の国外流出を疑われやすく、証拠が薄いと寄附金や役員賞与と認定されるおそれもあります。損金否認だけでなく、源泉所得税や重加算税に波及しかねない論点です。


2. 損失として計上する「3つの入り口」(法人の場合)

状況によって、使う根拠が変わります。

(1) 前払金が返ってこない ⇒ 貸倒損失

相手が持ち逃げした、倒産した、という場合は貸倒損失で処理します。法人税基本通達では次の3類型が示されています。

類型内容前渡金への適用
法律上の貸倒れ
(法基通9-6-1)
会社更生・民事再生・特別清算などの手続きで切り捨てられた金額、書面による債務免除など
事実上の貸倒れ
(法基通9-6-2)
債務者の資産状況・支払能力等からみて全額が回収できないことが明らかになった場合可(ただし立証が必要)
形式上の貸倒れ
(法基通9-6-3)
継続取引先との取引停止から1年以上、または取立費用に満たない少額債権不可(売掛債権が対象)

実務で問題になるのはここです。形式基準で救われる9-6-3は「売掛債権」が対象のため、前渡金や貸付金には使えません。つまり「1年待てば自動的に落とせる」わけではなく、9-6-2の「全額回収不能が明らか」を自分で立証する必要があります。相手が海外にいて連絡が取れない、というだけでは足りず、後述の証拠の積み上げが求められます。

(2) 納品されたソフトウェアが使えない ⇒ ソフトウエアの除却損

納品自体はされたが使えない、というケースでは除却損が入り口になります。法人税基本通達7-7-2の2は、物理的な廃棄がなくても、今後そのソフトウエアを事業の用に供しないことが明らかな事実があるときは、帳簿価額(処分見込価額があるときはその控除後)を損金算入できるとしています。

ソフトウェアは形がないため、「捨てた」ことを目に見える形で示せません。だからこそ使わないと決めた事実を書面で残すことが要件になります。具体的には、稟議書・取締役会議事録での中止決定、別システムへの移行記録、サーバーからの削除ログ、開発中止を通知した書面などです。

注意:この通達は「自社利用のソフトウエア」「複写して販売する原本」を想定した規定です。設計図面・デザインなど他の無形資産については、そのままの適用ではなく、資産の性質に応じた個別の検討(除却・評価損・貸倒れのいずれで整理するか)が必要です。

(3) 損害賠償請求権はどう扱うか

ここが見落とされがちです。被害を受けた側には、相手に対する損害賠償請求権が発生します。理屈のうえでは「損失(損金)と請求権(益金)が同時に立つ」ため、差引ゼロで節税にならないという結論もありえます。

この点、法人税基本通達2-1-43は、他の者から支払を受ける損害賠償金について、法人が実際に支払を受けた日の事業年度の益金に算入している場合はこれを認める、としています。あわせて、その基因となった損失の額は、保険金等で補填される部分を除き、損害の発生した日の事業年度の損金に算入できるとされています。外部の取引先による持ち逃げのような場合は、この取扱いにより先に損失、回収できたときに収益という整理ができる余地があります。

役員・従業員による横領は別扱い:社内の役員や使用人が持ち出したケースでは、判例上、損失と損害賠償請求権を同時に計上する(同時両建て)のが原則とされています。「社内の不正」と「外部業者とのトラブル」では結論が変わりますので、まず誰がやったのかを切り分けてください。


3. 税務署に認めてもらうために必要な証拠

結局のところ、損金にできるかどうかは証拠がそろっているかで決まります。「相手と連絡が取れません」という説明だけでは、まず通りません。次のものを、可能な限り集めてください。

① 警察への被害届・告訴状

詐欺・横領の疑いがあるなら、所轄の警察署に被害届を出すことをおすすめします。受理された事実そのものが、「架空の取引ではない」「本当に被害があった」ことを示す強い外部証拠になります。受理年月日・受理番号・担当署名を控え、提出した被害届の写しを保管してください。

被害届が受理されたからといって、税務上ただちに損金が認められるわけではありません。あくまで回収不能を裏づける材料のひとつです。逆に、被害届も出していない状態で「詐欺に遭った」と主張しても、説得力は大きく落ちます。

② 相手先への催告(内容証明・国際書留)

返金や履行を求めた記録を残します。相手が日本国内なら、内容証明郵便+配達証明が最も確実です。「いつ・誰が・誰に・どんな内容を送り、いつ届いたか」を郵便局が証明してくれます。

ただし、内容証明は日本国内向けの制度で、海外宛には差し出せません。相手が海外の場合は、次のような代替手段で記録を残します。

③ 当時の記録(取引の実在を示すもの)

④ 成果物そのもの(使えないことの証明)

「使えなかった」ケースでは、納品されたもの自体が最重要の証拠です。捨てずに保全してください。

よくある失敗:腹が立って納品データを消してしまう、相手とのチャットを退会・削除してしまう、送金は個人口座から立替払いのままで会社の帳簿に載っていない——いずれも後から取り返せません。損害が確定する前に、まず記録の保全です。


4. 消費税は「還付」されません

ここは誤解が非常に多いところです。「1,000万円損したのだから、消費税分も戻ってくるはず」という制度はありません。

① 損害賠償金は、そもそも消費税の対象外

消費税法基本通達5-2-5では、心身または資産につき加えられた損害の発生に伴い受ける損害賠償金は、資産の譲渡等の対価に該当しないとされています。つまり不課税です。相手から賠償金を回収できても消費税はかかりませんし、逆に損失を計上してもそこから消費税が生まれることはありません

② 前払いのまま持ち逃げされた場合は、そもそも課税仕入れが起きていない

消費税の仕入税額控除ができるのは、実際に資産の引渡しや役務の提供を受けたときです。前払金を送金しただけの段階では、まだ課税仕入れは発生していません。役務の提供を受けないまま持ち逃げされたのであれば、控除の対象になる取引自体が存在しないことになります。

③ 海外の業者への外注は、そもそも消費税がかかっていないことが多い

国外の事業者が国外で行う役務提供は国内取引に該当せず、消費税の課税対象外となるのが原則です。この場合、支払額に消費税は含まれていないため、控除するものも還付されるものもありません。ただし、インターネット経由で提供されるサービスのうち「電気通信利用役務の提供」に当たるものはリバースチャージ方式などの特別な扱いがあり、契約内容によって判定が変わります。ここは個別確認が必要です。

④ すでに控除した消費税がある場合は、修正が必要なことも

国内業者への支払いで、いったん課税仕入れとして仕入税額控除をしていたものが、後から取引の取消し・返金・値引きに至った場合には、対価の返還等として調整が必要になります。単なる貸倒れなのか、契約解除による返還なのかで扱いが変わるため、経緯を整理したうえで判断してください。

まとめ:損失は法人税・所得税の世界の話であって、消費税の世界の話ではありません。損金算入によって法人税の負担が減ることはあっても、消費税が還付されることはない——ここを分けて理解してください。


5. 個人事業主の場合(補足)

個人で事業をされている方は、法人とは根拠条文が変わります。


6. 次に同じ被害に遭わないために

税務の話の前に、契約段階でできることがあります。特に国境をまたぐ発注では、以下を標準にしてください。


持ち逃げ・不良納品の損失処理は、高円寺の税理士へ

W総合会計office(東京都杉並区高円寺) は、海外がからむ取引トラブルの税務処理に対応しています。

「まだ被害届も出していない」「証拠が残っているか分からない」という段階でも構いません。動くのが早いほど選択肢は多く残ります。お気軽にお問い合わせください。

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※本記事は2026年8月時点の情報をもとに作成した一般的な解説です。税制は改正される場合があり、実際の取扱いは契約内容・相手方との関係・回収可能性など個別の事情により異なります。また、被害の回復や刑事手続については弁護士の領域となります。実際の処理にあたっては税理士・弁護士にご相談ください。