売買契約中に売主が亡くなったら?準確定申告・住民税・相続税の注意点
杉並区高円寺の税理士・W総合会計office(代表税理士:渡邊巧)が、土地の売買契約を結んだ後・引渡しの前に売主が亡くなったケースで問題になる、準確定申告・住民税・相続税のポイントを整理します。
土地の売買契約を結んだものの、引渡し(決済)を迎える前に売主が亡くなる——実務では時々起こります。このとき、譲渡所得を「誰の」「いつの」所得として申告するかで、住民税の有無や相続税の扱いが変わります。やや専門的ですが、税負担に与える影響が大きい論点です。
1. まず「準確定申告」とは
亡くなった方についても、その年の所得税を精算する必要があります。相続人が亡くなった方に代わって行うこの申告を「準確定申告」といい、原則として相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に行います。亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得が対象です。
なお、前年分の確定申告を申告期限(翌年3月15日)前に終えないまま年明けに亡くなった場合は、その前年分も相続人が準確定申告で行います。土地の売却がからむケースでは、この「どの年分の所得になるか」が重要になります。
2. 譲渡所得は「いつの収入」になる?——引渡し日と契約日
土地を売ったときの譲渡所得を「いつの収入」とするかは、原則「引渡しがあった日」です。ただし、納税者の選択により「契約の効力が発生した日(契約日)」とすることも認められています(所得税基本通達36-12)。
この選択は、売主が亡くなったケースでは次のように効いてきます。
- 引渡し日基準(原則):引渡しが死亡後なら、譲渡所得は引渡しを完了した相続人の所得になります。
- 契約日基準(選択):契約日が生前なら、譲渡所得は亡くなった方の所得として準確定申告に含めます。
3. ポイントは「住民税」——亡くなった年の所得には住民税がかからない
ここで「準確定申告にすれば住民税がかからない」と理解されがちですが、これは正確ではありません。正しくは「亡くなった年(=翌年1月1日に既に亡くなっている年)の所得には住民税がかからない」という仕組みです。
個人住民税は、前年の所得をもとに翌年度に課税され、その基準日(賦課期日)は1月1日です。1月1日に住所がある(生存している)人が納税義務者になります。
- 亡くなった年の所得:その住民税は翌年度課税ですが、翌年1月1日には本人が亡くなっている → 納税義務者にならず、住民税はかからない。
- 亡くなった前年の所得:その住民税は亡くなった年の1月1日が基準日で、本人は生存 → 住民税がかかる(相続人が引き継いで納付)。
つまり、契約日(収入の時期)が「亡くなった年」か「その前年」かで、住民税の有無が変わります。契約日が前年だと、契約日基準を選んでも住民税は課税されます。「準確定申告にすれば必ず住民税が浮く」わけではない点に注意が必要です。
具体例で見ると
- 例1:2月に死亡/同年1月に契約・3月に引渡し … 契約日(1月)は死亡した年。契約日基準を選べば準確定申告に計上でき、その譲渡所得には住民税がかからない。
- 例2:2月に死亡/前年12月に契約・3月に引渡し … 契約日(前年12月)は前年。前年分の所得となり、基準日(死亡年の1月1日)に本人が生存しているため住民税がかかる。
このように、契約日が年末か年始かというわずかな違いで結論が分かれます。判断を誤ると住民税(譲渡所得に対し長期で5%・短期で9%)の負担が変わるため、慎重な検討が必要です。
4. 相続人が配偶者だけなら相続税は0円?
売主が亡くなると、譲渡所得(所得税)とは別に相続税も問題になります。引渡し前に売主が亡くなった場合、相続財産は「土地」そのものではなく、「売買代金を受け取る権利(残代金請求権)」として扱われ、原則として売買代金の額面で評価されます(国税庁の質疑応答事例)。土地のまま評価する(路線価による)より高くなりやすい点に注意が必要です。
もっとも、相続人が配偶者だけ(子・親・兄弟姉妹がいない)で、配偶者がすべてを相続する場合は、「配偶者の税額軽減」により、財産の額にかかわらず相続税は実質0円になります。配偶者は「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか多い額まで非課税で、配偶者が唯一の相続人ならその枠は財産全体に及ぶためです。
ただし、配偶者の税額軽減は「相続税の申告書を提出して初めて受けられる」制度です。税額が0円でも、遺産が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は申告が必要です。「0円だから何もしなくてよい」ではありません。
5. 「相続税0円」の裏にある2つの注意点
取得費加算の特例が使えない
相続した不動産を一定期間内に売ると、納めた相続税の一部を取得費に加算して譲渡所得を減らせる特例(取得費加算)があります。しかし配偶者の税額軽減で相続税が0円になると、加算できる相続税額もないため、この特例は使えません。
二次相続で重くなることがある
配偶者がすべてを相続して一次相続の相続税が0円でも、その配偶者が亡くなる「二次相続」では配偶者の税額軽減が使えません。売却代金(現金)がそのまま残っていると、二次相続の相続税が大きくなることがあります。一次・二次を通算した検討が大切です。
まとめ
- 引渡し前に売主が亡くなった場合、譲渡所得は「引渡し日」か「契約日」かを選べる(所得税基本通達36-12)。
- 住民税は「亡くなった年の所得」にはかからない。契約日が前年だと住民税はかかる。
- 相続人が配偶者だけなら相続税は実質0円(ただし申告が必要)。
- 相続財産は売買代金債権として額面評価。取得費加算は使えず、二次相続にも注意。
これらは「契約・死亡・引渡し」のタイミングと相続人の構成が複雑に絡む論点です。どの申告方法が有利かは、譲渡益・取得費・取得時期・財産構成によって変わります。実際の判断は、必ず数字を入れて試算したうえで行うことをおすすめします。
準確定申告・相続のご相談は、高円寺の税理士へ
W総合会計office(東京都杉並区高円寺) は、亡くなった方の準確定申告から相続税申告まで一貫してサポートしています。
- 準確定申告(亡くなった方の所得税の精算)
- 不動産売却の譲渡所得の試算と、引渡し日・契約日の有利判定
- 配偶者の税額軽減・二次相続まで見据えた相続税のご相談
- 取得費加算など各種特例の検討
- 高円寺駅・新高円寺駅から徒歩圏内/営業時間 9:00〜20:00(土日祝を除く)
- 香港人スタッフ在籍(広東語・英語対応可)
「契約後に売主が亡くなった」「準確定申告と相続税のどちらも必要かもしれない」という段階でのご相談が、最も負担軽減につながります。お気軽にお問い合わせください。
※本記事は2026年6月時点の法令・通達等をもとに作成した一般的な解説です。税制は改正される場合があり、契約内容や個別の状況により取り扱いが異なります。実際の申告にあたっては税理士にご相談ください。