インボイス、個人事業主はどうする?登録の判断と2割・3割特例を税理士が解説
杉並区高円寺の税理士・W総合会計office(代表税理士:渡邊巧)が、インボイス制度で個人事業主が「登録すべきか」の判断と、負担を抑える特例を解説します。
インボイス制度が始まり、「免税事業者のままでいいのか」「登録すると税金が増えるのか」と悩む個人事業主は多くいます。取引先が誰かと負担軽減の特例を理解すれば、判断の軸が見えてきます。
Contents
1. インボイス制度とは
インボイス(適格請求書)は、買い手が消費税の「仕入税額控除」を受けるために必要な請求書です。インボイスを発行できるのは、税務署に登録した適格請求書発行事業者(=課税事業者)だけです。
これまで売上1,000万円以下で消費税を納めていなかった「免税事業者」は、登録すると消費税の納税義務が発生します。ここが最大の悩みどころです。
2. 登録すべきかは「取引先」で考える
- 取引先が事業者(法人など)中心:相手はインボイスがないと仕入税額控除ができず、取引に影響する可能性があります。登録を検討するケースが多いです。
- 取引先が一般消費者中心(美容・飲食・小売など):相手は仕入税額控除を必要としないため、登録しない選択も十分に合理的です。
「周りが登録しているから」ではなく、自分の取引先がインボイスを必要とするかで判断するのが基本です。
3. 登録した場合の負担軽減措置
2割特例
免税事業者からインボイス登録で課税事業者になった人は、売上にかかる消費税の2割を納めればよい特例が使えます。個人事業主は2026年分の申告(2027年3月)まで適用できます。
3割特例(後継措置)
2割特例の後継として、令和9年分(2027年分)・令和10年分(2028年分)の確定申告に適用される措置です。売上にかかる消費税額の70%を差し引き、納付税額を売上税額の3割にできます。主な要件は次の3つです。
- 個人事業者であること(法人は対象外です)
- 基準期間の課税売上高が1,000万円以下であること(適用を受ける年の2年前。令和9年分なら令和7年、令和10年分なら令和8年)
- インボイス発行事業者の登録を受けていること
申告は一般課税または簡易課税で行います。なお、課税売上高が1,000万円を超える方、調整対象固定資産等の取得により免税事業者とならない方、課税期間を短縮している方は対象外です。
簡易課税制度
売上にみなし仕入率をかけて納税額を計算する方法です。業種ごとに率が決まっており、事務負担を軽くできます。どの方法が有利かは、売上と経費の構成によって変わります。
特例を使い終わってから簡易課税に移れます。簡易課税は本来、適用を受けようとする課税期間の開始前までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を出す必要があります。ただし2割特例・3割特例を使った翌課税期間に簡易課税へ移りたい場合は、その課税期間の申告期限までに届出書を出せば、その課税期間から簡易課税を適用できます。実績を見てから決められるということです(2割特例を使った課税期間の翌課税期間が令和8年9月30日以前に終了する場合は、その課税期間の末日までの提出となります)。
ポイント:2割特例・簡易課税・本則課税のどれを選ぶかで、納税額も事務負担も変わります。特例の期限も意識しながら、早めにシミュレーションしておくと安心です。
4. 買い手側(発注する側)の経過措置——2026年10月から70%に
免税事業者へ支払う側にも、仕入税額控除の経過措置があります。インボイスがない取引でも、支払った消費税相当額のうち一定割合までは控除できます。この割合は段階的に下がっていき、2026年(令和8年)10月1日から80%→70%に縮小します。
控除できる割合と時期
- 〜 令和8年9月30日 ……… 80%
- 令和8年10月1日 〜 ……… 70%
- 令和10年10月1日 〜 ……… 50%
- 令和12年10月1日 〜 ……… 30%
- 令和13年10月1日 〜 ……… 控除できません
当初は令和8年10月から一気に50%へ下がる予定でしたが、令和8年度税制改正で段階が細かくなり、期間も令和13年9月末まで延長されました。外注先や仕入先に免税事業者が多い事業者は、10月1日をまたぐ取引から控除できる額が減ります。判定は請求書を受け取った日ではなく課税仕入れを行った日ですので、9月と10月をまたぐ取引の区分と、会計ソフトの経過措置の設定をあわせてご確認ください。
70%・50%・30%には「1億円」の上限があります
令和8年10月1日以後の 70%・50%・30% の控除については、同じ一者(一のインボイス発行事業者以外の者)からの課税仕入れの合計額(税込み)が、その年または事業年度で1億円を超える場合、その超えた部分には適用できません。改正前の上限は10億円でしたので、大きく引き下げられました。
この1億円の上限は令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。控除割合そのものは「課税仕入れを行った日」で切り替わるのに対し、上限は「課税期間の開始日」で判定される点にご注意ください(個人事業者なら令和9年分から、3月決算法人なら令和9年4月開始の事業年度から)。特定の免税事業者に多額の外注・仕入れが集中している場合は、事前に年間の見込額を確認しておくことをおすすめします。
この経過措置の適用を受けるには、区分記載請求書等と同様の記載がある請求書等の保存と、帳簿に「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」の記載が必要です。発注が多い事業者は、この点も踏まえた取引設計が必要です。
5. 税込1万円未満の仕入れは帳簿だけでよい(少額特例)
買い手側には、もう一つ少額特例という事務負担の軽減措置があります。税込1万円未満の課税仕入れについては、インボイスを保存していなくても、帳簿の保存だけで仕入税額控除ができます。少額の消耗品や書籍、コインパーキング代などを1件ずつインボイスで管理しなくてよい、という趣旨の措置です。
使えるのは一定規模以下の事業者です
- 基準期間(個人事業主は2年前)の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下であること(どちらか一方を満たせば適用できます)
- 対象になるのは令和5年10月1日から令和11年(2029年)9月30日までに行う課税仕入れです
※特定期間とは、個人事業主は前年1月〜6月、法人は前事業年度の開始の日以後6か月の期間をいいます。
「1万円未満」は1回の取引で判定します
商品1個ごとの金額ではなく、1回の取引の税込合計額で判定します。5,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入した場合は合計12,000円となり、少額特例の対象にはなりません。
相手が免税事業者でも全額を控除できます
ここが実務で効くところです。税込1万円未満であれば、支払先がインボイス発行事業者かどうかを問わず適用できます。4でご説明した80%・70%の経過措置ではなく、支払った消費税相当額の全額を控除できます。
間違えやすい点:少額特例は買い手がインボイスの保存を省略できる制度であって、売り手の交付義務が免除されるわけではありません。1万円未満の売上であっても、取引先から求められればインボイスを交付する必要があります。また、特定期間の判定は納税義務の判定と異なり、課税売上高に代えて給与支払額で判定することはできません。
期限にご注意ください。令和11年10月1日以後に行う課税仕入れは、課税期間の途中であっても少額特例の対象外となります。個人事業主の令和11年分であれば、9月30日までの仕入れとそれ以後の仕入れで取扱いが変わります。
もう一つの「1万円未満」——返品・値引きのとき
これとは別に、返品や値引き(売上に係る対価の返還等)の金額が税込1万円未満であれば、返還インボイスを交付しなくてよいというルールもあります。振込手数料相当額が差し引かれて入金された分を売上値引きとして処理する場合などが典型です。こちらは売上規模の要件も期限もない恒久的な措置で、少額特例とは別の制度です。
6. よくある質問
免税事業者ですが、登録すべきでしょうか?
取引先で判断します。取引先が事業者中心なら、相手が仕入税額控除をできないため登録を検討するケースが多くなります。一般消費者が中心なら、登録しない選択も十分に合理的です。
2割特例はいつまで使えますか?
個人事業主は2026年分の申告(2027年3月)までです。その後継として、令和9年分(2027年分)・令和10年分(2028年分)には3割特例が適用されます。
免税事業者に発注する側は、どれだけ控除できますか?
経過措置により、令和8年9月30日までは80%、令和8年10月1日からは70%、令和10年10月1日からは50%と段階的に縮小します。
少額の経費まで、インボイスを集める必要がありますか?
少額特例が使えれば、税込1万円未満の課税仕入れはインボイスの保存がなくても帳簿の保存だけで控除できます。ただし、基準期間の課税売上高が1億円以下などの規模の要件があります。
2割特例と簡易課税は、どちらを選べばよいですか?
2割特例は売上にかかる消費税の2割を納めればよい制度で、事前の届出なく使えます。簡易課税は業種ごとのみなし仕入率で計算し、事前の届出が必要です。どちらが有利かは業種と仕入れの構成で変わるため、申告前に試算するのが確実です。
インボイスの判断は、高円寺の税理士へ
W総合会計office(東京都杉並区高円寺) は、インボイス対応をサポートしています。
- 登録すべきかどうかの判断アドバイス
- 2割特例・簡易課税・本則課税の有利不利シミュレーション
- インボイス登録手続き・消費税申告
- 飲食店・フリーランス・大家など業種別の対応
- 新高円寺駅から徒歩3分・高円寺駅から徒歩11分/営業時間 9:00〜20:00(土日祝を除く)
「登録すべきか迷っている」「どの計算方法が得か知りたい」という方は、お気軽にお問い合わせください。
インボイス登録後の消費税申告は、個人の方は 確定申告の代行、法人は 法人顧問・決算申告 のページにまとめています。
※本記事は2026年9月時点の情報をもとに作成した一般的な解説です。税制は改正される場合があり、個別の状況により取り扱いが異なります。実際の申告にあたっては税理士にご相談ください。