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Tax-Saving — 役員退職金の活用

役員退職金スキームで節税
功績倍率・退職所得の優遇・分掌変更

役員退職金(役員退職慰労金)は、法人にとっては大きな損金になり、受け取る役員個人にとっては税負担の軽い退職所得になる——会社のお金を、最も効率よく個人へ移せる代表的な節税策です。事業承継・引退の場面はもちろん、在任中でも「分掌変更」を使えば退職金を出せるケースがあります。本コラムでは、なぜ有利なのか、適正額の決め方、分掌変更や出口戦略、手続きと注意点を高円寺の税理士が実務目線で整理します。

代表税理士 渡邊巧
監修・執筆 — Author
代表税理士 渡邊 巧 / W総合会計office(高円寺の税理士)
確定申告・法人税・相続税・贈与税・記帳代行・経営相談に対応。プロフィール →

Overview役員退職金がなぜ節税になるのか

役員退職金スキームの効果は、法人と個人の両方で生まれます。法人側では、適正な範囲の退職金が損金になり、その期の利益を大きく圧縮できます。個人側では、受け取った退職金が給与・賞与ではなく退職所得として扱われ、所得税・住民税の負担が大幅に軽くなります。

同じ金額を役員報酬で受け取ると、所得税・住民税の累進課税と社会保険料がかかります。これに対し退職金は、後述する3つの優遇によりはるかに低い税負担で受け取れます。「報酬で取るより退職金で取る」ほうが手取りが大きくなる——これが役員退職金が王道の節税策とされる理由です。

中小オーナー会社の集大成として

役員退職金は、長年の役員報酬を抑えてきたオーナー社長が、引退時にまとまった資産を低い税負担で受け取るための仕組みとして特に有効です。会社に蓄積した利益(利益剰余金)を、退職のタイミングで効率よく個人へ移すことができます。

Why Favorable退職所得が優遇される理由

退職所得が軽い税負担で済むのは、次の3つの優遇が重なるためです。

退職所得の3つの優遇
優遇内容
退職所得控除勤続年数に応じた大きな控除(下記)
2分の1課税控除後の金額を原則さらに半分に
分離課税他の所得と合算せず単独で課税

退職所得控除額

勤続20年以下:40万円 × 勤続年数(最低80万円)

勤続20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

たとえば勤続30年なら、控除額は800万円+70万円×10年=1,500万円。退職金からこの控除を引き、さらに原則2分の1にした金額にだけ課税されます。

退職金の課税対象は、ざっくり「(退職金 − 退職所得控除)× 1/2」です。控除と2分の1により、課税される金額は退職金の額面よりかなり小さくなり、しかも分離課税で税率の急上昇も避けられます。

役員は「勤続5年以下」に注意

役員等としての勤続年数が5年以下の場合に支払われる退職金(特定役員退職手当等)は、2分の1課税が使えません。短期間だけ役員にして退職金を取る、といった使い方はこの優遇を受けられないため、勤続年数の管理が重要です。

Calculation適正額の算定——功績倍率法

退職金は「いくらでも出せる」わけではありません。税務上、実務で広く使われる目安が功績倍率法です。

功績倍率法による役員退職金の目安

最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率

功績倍率は役職に応じた倍率で、社長はおおむね3.0前後が一つの目安とされます(会社の規模や同業他社の状況により異なります)。たとえば最終報酬月額100万円・在任30年・功績倍率3.0なら、100万円×30×3.0=9,000万円が一つの目安になります。

功績倍率法はあくまで実務上の目安であり、絶対的な上限ではありませんが、これを大きく超えると過大と判断されるリスクが高まります。最終報酬月額が低い場合は功績倍率法では小さくなりがちなので、その場合は別の合理的な算定も検討します。

Excessive Amount過大な退職金は損金にならない

役員退職金のうち不相当に高額な部分は、税務上、損金になりません。相当かどうかは、その役員の在任期間・退職の事情・同業類似規模の会社の退職金の支給状況などに照らして判断されます。

つまり、いくら株主総会で決めても、実態に照らして過大な部分は会社の経費として認められず、その分だけ法人税が課されます。退職金規程・株主総会決議・功績倍率の根拠を整え、世間水準とかけ離れない金額にすることが大切です。

「相当性」を裏づける備えを

退職金規程の整備、株主総会(または取締役会)の議事録、功績倍率や同業他社水準の根拠資料——これらをそろえておくことが、過大認定を避け、調査でも説明できる備えになります。金額の妥当性に不安があれば、支給前に検討するのが安全です。

Role Change分掌変更——在任中でも退職金を出せる

退職金は完全に退職しなくても支給できる場合があります。役員の分掌変更(役職・職務の大きな変更)により、その役員としての地位や職務が激変し、実質的に退職したのと同様の事情にあると認められるときは、在任中でも退職給与として損金にできます。

具体的には、次のようなケースが目安とされています。

  • 常勤役員が非常勤役員になった(代表権を持つ者や、実質的に経営の主要な地位を占める者を除く)
  • 取締役が監査役になった(実質的に経営の主要な地位を占める者などを除く)
  • 分掌変更後の報酬がおおむね50%以上減少した

事業承継の場面で有効、ただし実態が命

分掌変更による退職金は、先代が経営の一線を退き、後継者へ承継する場面で力を発揮します。ただし、肩書きだけ変えて実際は経営を握り続けている、報酬の減少が伴わない、といった形だけの分掌変更は否認されます。また、退職給与は原則として実際に支払うことが前提で、未払金に計上しただけでは退職給与と認められないのが原則です。実態を伴った運用が欠かせません。

Death Benefit死亡退職金と相続税の非課税枠

役員が在任中に亡くなった場合の死亡退職金には、別の優遇があります。遺族が受け取る死亡退職金には、相続税で「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があります。あわせて、業務上・業務外の死亡に応じた弔慰金も、一定範囲は相続税の課税対象外とされます。

会社にとっては損金、遺族にとっては相続税の非課税枠を使える——死亡退職金は、万一に備えた保障と節税を兼ねる仕組みです。生命保険を原資にして準備することもよく行われます。

Funding & Exit原資の準備と出口戦略

多額の退職金を払うには、原資の準備が必要です。代表的なのは、計画的な利益の蓄積に加え、法人向けの生命保険、経営セーフティ共済などの活用です(保険の経理処理は近年の改正で変わっているため、最新のルールに沿った設計が必要です)。社長個人の側では、小規模企業共済が退職金代わりの積立てとして有効です。

航空機リースと退職金で「繰延→相殺」までがワンセット

退職金は大きな損金になるため、同じ期に大きな利益(益金)が出るタイミングに合わせると効果的です。その益金をあえて作り出す代表例が航空機リース(オペレーティングリース)です。利益が出た期にリースで課税を繰り延べ、リース満了で戻ってくる売却益(益金)を、社長の引退時に支給する退職金(損金)でぶつけて相殺する——ここまでで一つのスキームです。これにより、本来法人税がかかる利益を、税負担の軽い退職所得として個人へ移せます。リース満了・退職・益金の時期を合わせる設計が、出口戦略の要になります(不動産の譲渡益など他の益金との組み合わせも同様です)。

Procedure手続きと注意点

役員退職金を確実に損金にするには、形式と実態の両方を整えます。

  • 退職金規程を整備する:支給基準(功績倍率など)、対象者、支給方法を定めておきます。
  • 株主総会で決議する:支給額・支給時期を株主総会(または規程に基づく取締役会)で決議し、議事録を残します。
  • 損金算入の時期に注意:原則として、株主総会等で支給額が具体的に確定した事業年度に損金算入します(実際に支払った事業年度で処理する方法が認められる場合もあります)。
  • 資金繰りを確認する:多額の現金が一度に出るため、原資と納税のバランスを事前に試算します。
  • 退職所得の源泉徴収:「退職所得の受給に関する申告書」を受け、適正に源泉徴収します。

FAQよくある質問

役員報酬で受け取るのと、退職金で受け取るのはどちらが得ですか?

一般に退職金が有利です。退職所得は退職所得控除・2分の1課税・分離課税で税負担が軽く、社会保険料もかからないため、同じ額面なら退職金のほうが手取りが大きくなります。

退職金はいくらまで出せますか?

明確な上限はありませんが、功績倍率法(最終報酬月額×在任年数×功績倍率)が実務の目安です。在任期間・退職事情・同業他社の水準に照らし不相当に高額な部分は損金になりません。

会長として残るのですが退職金は出せますか?

分掌変更により役員としての地位・職務が激変し、実質的に退職と同様と認められれば可能です。常勤から非常勤、報酬のおおむね50%以上の減少などが目安で、形だけの変更や実権の継続は否認されます。

退職金の原資はどう準備すればよいですか?

計画的な利益の蓄積に加え、法人向け生命保険や経営セーフティ共済が使われます。保険の経理処理は近年変わっているため、最新ルールに沿った設計が必要です。社長個人は小規模企業共済も有効です。

退職金はいつの経費になりますか?

原則として株主総会等で支給額が確定した事業年度の損金です(実際に支払った事業年度で処理する方法が認められる場合もあります)。大きな益金の出る期に合わせる出口戦略が重要です。

Our Support当事務所のサポート

W総合会計officeでは、役員退職金の適正額の試算(功績倍率法)、退職金規程・株主総会議事録の整備、過大退職給与とされないための根拠づくり、分掌変更による退職金の可否の検討、死亡退職金・弔慰金と相続税の設計、原資の準備(保険・共済)、航空機リース等の益金と組み合わせた出口戦略、損金算入時期と源泉徴収の処理までを一貫してサポートします。事業承継・引退をお考えの段階から、お早めにご相談ください。

※本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の取扱いは事実関係により異なります。退職金の相当額、分掌変更の判定、損金算入時期、相続税の取扱いなど、具体的なご判断は当事務所にご相談ください。税制・通達は改正される場合があります(記載内容は2026年6月時点)。