【大家さんの確定申告ガイド】不動産所得の経費・節税のコツを税理士が解説
杉並区高円寺の税理士・W総合会計office(代表税理士:渡邊巧)が、アパート・マンション・戸建てを貸す大家さん(不動産賃貸)向けに、確定申告と経費・節税のポイントを解説します。
家賃収入が入ると、「経費にできるものは?」「青色申告にしたほうがいいの?」「いくらから確定申告が必要?」と疑問が出てきます。不動産賃貸は、経費の取り方と申告方法で手取りが大きく変わる分野です。
この記事では、大家さんの税務に対応してきた税理士の視点から、不動産所得の経費、事業的規模と青色申告特別控除、資産管理会社(法人化)による上級の節税、最新の税制改正まで実務に沿ってまとめます。
Contents
1. 大家さんは確定申告が必要?
家賃収入から経費を引いた「不動産所得」が出る場合、原則として確定申告が必要です。
- 専業の大家さん:不動産所得が基礎控除などを超えれば申告が必要です。
- 会社員の副業大家さん:給与以外の所得(不動産所得)が年間20万円を超えると、確定申告が必要になります。
なお、家賃が多少赤字でも、減価償却を含めると申告したほうが有利になるケースや、他の所得と損益通算できる場合があります。判断に迷うときは早めに相談するのが安全です。
2. 大家さんが経費にできるもの【具体例】
不動産所得の経費は「賃貸を続けるために必要な支出」です。代表的なものは次のとおりです。
物件にかかる費用
- 固定資産税・都市計画税
- 建物の減価償却費(後述/経費の中でも特に大きい項目)
- 火災保険・地震保険などの損害保険料
- 修繕費(原状回復、設備の修理など)
- 共用部分の水道光熱費
管理・運営費
- 管理会社への管理委託料
- 入居者募集の広告料・仲介手数料
- 退去時のクリーニング・リフォーム費用
- エレベーター・消防設備などの保守点検費用
借入・専門家費用
- 借入金の利息(元本は経費になりません)
- 税理士・司法書士への報酬
- 物件の見回りや打ち合わせの交通費
減価償却費とは
建物や設備は、購入時に全額を経費にするのではなく、法定耐用年数にわたって少しずつ経費にしていきます。これが「減価償却」です。現金の支出を伴わずに毎年計上できる経費のため、節税の柱になります。木造・鉄骨・RCなど構造によって耐用年数が異なり、計算を誤ると税額が大きくずれるため注意が必要です。
ポイント:土地は減価償却の対象になりません。物件購入時は「建物部分」と「土地部分」の金額を分けて把握しておくことが重要です。
建物の法定耐用年数
賃貸用の建物は、構造によって耐用年数が決まっています。同じ2,000万円の建物でも、木造なら22年、鉄筋コンクリート造なら47年で割ることになり、1年あたりの経費は2倍以上違います。
| 構造 | 耐用年数 |
|---|---|
| 木造・合成樹脂造 | 22年 |
| 木骨モルタル造 | 20年 |
| 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造(SRC・RC) | 47年 |
| れんが造・石造・ブロック造 | 38年 |
| 金属造(骨格材の肉厚 4mm超) | 34年 |
| 金属造(骨格材の肉厚 3mm超4mm以下) | 27年 |
| 金属造(骨格材の肉厚 3mm以下) | 19年 |
いずれも住宅用の場合の年数です。同じ構造でも店舗用・事務所用では年数が変わるため、店舗併用の物件では用途の区分が必要になります。
中古物件を買った場合
中古の物件を取得したときは、新築と同じ耐用年数を使うわけではありません。すでに経過した年数を考慮して、法定耐用年数より短い年数で計算できます。築古の木造アパートで「4年で償却する」といった話が出るのは、この仕組みによるものです。
償却期間が短いほど1年あたりの経費は大きくなるため、取得直後の数年は税負担を大きく圧縮できます。一方で償却が終わったあとは経費が急に減り、同じ家賃収入でも税額が跳ね上がります。物件を持ち続けるのか、償却が終わる前に売却するのかまで含めて、購入時点で見通しを立てておくことが大切です。
注意:取得後に大きな改修を行った場合、その金額によっては短縮した年数を使えないことがあります。中古物件の耐用年数の算定方法は、国税庁タックスアンサー「No.5404 中古資産の耐用年数」に定めがあります。実際の計算は税理士にご確認ください。
3. 赤字が出たとき——損益通算と「土地の利子」の落とし穴
不動産所得が赤字になった場合、その赤字は給与所得など他の所得と相殺できます(損益通算)。会社員の大家さんが、減価償却によって出た赤字で給与から源泉徴収された所得税の還付を受けられるのは、この仕組みによるものです。
ただし、すべての赤字が使えるわけではありません。不動産所得の赤字のうち、土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分は、なかったものとみなされ、損益通算できません(租税特別措置法第41条の4)。
これは大家さんの申告で最も見落とされやすい規定のひとつです。物件をローンで購入した場合、その借入金は「建物を買うための借入」と「土地を買うための借入」に分かれます。建物分の利子は赤字に使えますが、土地分の利子は損益通算の対象から外れます。
借入時に土地と建物の内訳が明示されていないことも多く、その場合は一定の方法で按分して計算します。「赤字だから全額を給与と相殺できるはず」と考えて申告すると、あとで否認されることがあります。
なお、赤字が損益通算しきれなかった場合、青色申告をしていれば翌年以降3年間繰り越して黒字と相殺できます。
4. 「事業的規模」だと節税メリットが大きい
不動産賃貸が事業的規模と認められると、青色申告のメリットを最大限に受けられます。目安は「5棟10室基準」——おおむね貸家なら5棟以上、アパート・マンションなら10室以上であれば事業的規模とされます。
| 項目 | 事業的規模 | 事業的規模でない |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 最大65万円 | 最大10万円 |
| 家族への給与(青色事業専従者給与) | 経費にできる | できない |
| 賃貸用資産の取り壊し・除却損 | 全額を経費にできる | 不動産所得を限度 |
65万円控除には「もうひとつの条件」があります
ここを取りこぼしている方が少なくありません。事業的規模で正規の簿記により記帳しても、それだけでは控除額は55万円です(租税特別措置法第25条の2第3項)。65万円になるのは、次のいずれかを満たしたときに限られます(同条第4項)。
- e-Taxによる電子申告。確定申告書と貸借対照表・損益計算書等を、期限までに電子送信すること
- 優良な電子帳簿の保存。帳簿を電子帳簿保存法の要件に従って 電子的に備え付け・保存すること
紙で申告書を提出している場合、帳簿をきちんと付けていても10万円分を取りこぼします。所得税・住民税を合わせると、この10万円の差は実際の税額で数万円になります。e-Taxへの切り替えだけで済むケースがほとんどです。
青色申告は「事前の申請」が必要です
青色申告は、確定申告のときに選ぶものではありません。あらかじめ税務署に「青色申告承認申請書」を出しておく必要があります(所得税法第144条)。
| 状況 | 期限 |
|---|---|
| すでに賃貸を始めている | 青色申告をしたい年の3月15日まで |
| その年1月16日以後に新たに賃貸を開始した | 業務を開始した日から2か月以内 |
この期限は取り返せません。3月15日を過ぎてから「今年から青色にしたい」と思っても、その年は白色申告になります。物件を取得したら、まず申請書の期限を確認してください。
規模が大きくなってきた大家さんは、申告方法の見直しだけで節税効果が大きく変わります。
5. インボイス制度と大家さん
- 居住用住宅の家賃:もともと消費税は非課税のため、インボイスの影響は基本的にありません。
- 店舗・事務所・駐車場などの貸付:消費税の課税対象となるため、テナントが課税事業者の場合はインボイス登録を検討するケースがあります。
「アパートと店舗の両方を貸している」といった場合は、課税・非課税の区分が必要です。
店舗・事務所・駐車場の賃料収入が年1,000万円以下で免税事業者だった大家さんが、テナントの求めに応じてインボイス登録をすると、課税事業者となって消費税の申告・納税義務が生じます。その場合の負担は負担軽減措置で抑えられます。2割特例(売上にかかる消費税の2割を納付)は個人なら令和8年分(2026年分)の申告まで、その後継の3割特例(売上税額の3割)が令和9年分・令和10年分に適用されます。なお居住用の家賃はそもそも非課税売上なので、この判定に含めるのは店舗・事務所・駐車場などの課税売上だけです。
6. さらに上級の節税|資産管理会社(法人化)の活用
家賃収入が増えてきた大家さんは、個人で持ち続けるよりも資産管理会社(不動産管理・保有を目的とした法人)を設立したほうが、トータルの税負担を抑えられるケースがあります。所得が大きくなるほど、検討する価値が高まる上級者向けの選択肢です。
① 所得分散による節税
個人の所得税は、所得が大きいほど税率が上がる累進課税(最高45%+住民税10%)です。一方、法人税の実効税率はおおむね一定水準にとどまります。所得が一定額を超えると、法人のほうが税率面で有利になる分岐点が生まれます。
さらに、配偶者や子などの親族を役員にして役員報酬を支払うことで、ひとりに集中していた所得を家族に分散できます。
- 各人の所得が分かれることで、より低い税率が適用される
- 役員報酬を受け取る家族にも給与所得控除が使える
- 結果として、世帯全体の手取りを増やせる可能性がある
ポイント:役員報酬は「実際の職務の実態」に見合った金額である必要があります。名前だけの役員に不相応な報酬を出すと否認されるリスクがあるため、設計は税理士と行うことが重要です。
② その他の法人化メリット
- 相続・事業承継対策:物件を法人で保有し、株式(出資持分)を計画的に贈与・移転することで、相続税対策につなげられる。
- 経費にできる範囲が広がる:生命保険、退職金(役員退職金)、社宅などを活用できる場合がある。
- 欠損金の繰越期間が長い:法人は最長10年(個人は3年)にわたって赤字を繰り越せる。
③ 法人化の注意点
- 設立費用・税理士報酬・社会保険料などのランニングコストが発生する
- 赤字でも法人住民税の均等割(最低でも年7万円程度)がかかる
- 個人から法人へ物件を移す際に、登録免許税・不動産取得税・譲渡所得税などが生じる場合がある
法人化が有利になるかは、家賃収入の規模・他の所得・家族構成・将来の相続まで含めた総合判断が必要です。「不動産所得がまとまった額になってきた」「親族に承継したい」という段階になったら、シミュレーションをおすすめします。
7. 令和8年分(2026年分)の改正ポイント
令和8年度改正により、令和8年分(2026年分)から基礎控除の本則が62万円に引き上げられました(令和7年分は58万円、令和6年分までは48万円)。さらに令和8年・9年分は期間限定の上乗せがあり、合計所得489万円以下なら104万円、489万円超655万円以下なら67万円、655万円超2,350万円以下は62万円となります。あわせて給与所得控除の最低保障額は65万円から69万円に引き上げられ、令和8年・9年分は給与収入220万円以下の場合にさらに5万円が上乗せされて74万円になります。扶養親族等の合計所得金額の要件も58万円から62万円になりました(令和8年12月1日施行・令和8年分以後の所得税に適用)。なお、上乗せは令和8年・9年分の措置です。令和10年分以後は区分が変わり、合計所得132万円以下の方に37万円が上乗せされて99万円となる予定です。
また、少額減価償却資産の特例の上限が、30万円未満から2026年4月1日以後の取得分は40万円未満に引き上げられました(取得日で判定、年間合計300万円まで)。エアコンや給湯器などの設備入れ替えの年に活用できます。
8. 確定申告をスムーズに進める3つのコツ
- 家賃収入と経費を物件ごとに管理する:複数物件がある場合、物件別に集計しておくと申告が正確になります。
- 建物と土地の取得価額を把握しておく:減価償却の計算と将来の売却時の両方で必要になります。
- 修繕費か資本的支出かの判断は税理士へ:大規模修繕は「一括経費」か「減価償却」かで税額が大きく変わります。
9. よくある質問
会社員の副業ですが、家賃収入はいくらから申告が必要ですか?
給与以外の所得(不動産所得)が年20万円を超えると、確定申告が必要です。赤字の場合も、減価償却を含めて損益通算すると還付になることがあるため、判断に迷うときは試算してみてください。
不動産所得が赤字なら、全部を給与と相殺できますか?
できません。赤字のうち、土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分は、なかったものとみなされ損益通算できません(租税特別措置法第41条の4)。大家さんの申告で最も見落とされやすい論点です。
「事業的規模」とは、何室からですか?
おおむね貸家5棟以上、アパート・マンションなら10室以上が目安です(5棟10室基準)。事業的規模だと青色申告特別控除が最大65万円になり、家族への給与も経費にできます。
アパートの家賃にインボイスは関係しますか?
居住用住宅の家賃はもともと消費税が非課税なので、基本的に影響はありません。店舗・事務所・駐車場の貸付けは課税対象なので、テナントが課税事業者ならインボイス登録を検討することがあります。
大規模修繕の費用は、一括で経費にできますか?
原状回復や維持管理のための支出は修繕費として一括で経費にできますが、性能を高めたり耐用年数を延ばしたりする支出は資本的支出として減価償却になります。金額が大きいほど税額への影響も大きいので、着工前にご相談ください。
不動産賃貸の税務は、専門の税理士にお任せください
W総合会計office(東京都杉並区高円寺) は、大家さん・不動産オーナーの税務を数多くサポートしています。
- 確定申告・記帳代行・減価償却の計算サポート
- 事業的規模の判定・青色申告への切り替え
- 資産管理会社(法人化)による所得分散・節税シミュレーション
- 物件購入・売却・相続を見据えた税務相談
- 新高円寺駅から徒歩3分・高円寺駅から徒歩11分/営業時間 9:00〜20:00(土日祝を除く)
「経費の取り方が不安」「青色申告65万円控除を使いたい」「相続も見据えて相談したい」——そんな方は、お気軽にお問い合わせください。
不動産所得の確定申告と、家賃・経費の記帳をお引き受けする場合の進め方は 確定申告の代行・記帳代行(丸投げOK) のページにまとめています。
※本記事は2026年9月時点の情報をもとに作成した一般的な解説です。税制は改正される場合があり、個別の状況により取り扱いが異なります。実際の申告にあたっては税理士にご相談ください。